ヘボン先生との対話 涙と共に福音の種を蒔くすべての人々に

医療伝道宣教師ヘボンとの時空を超えた対話の書
〈評者〉具志堅聖

 港町・横浜は、私が最初に派遣され、牧会伝道に関わることとなった街です。約十二年間、戸塚区の傍らで小さな群れの牧師として生活しました。あれから約20年が過ぎてしまいましたが、今でも時々当地を訪れては心に安らぎと慰めを得ています。
 そんな美しい街の傍らで著者の柳沼時影氏は眼科医兼牧師として尊い働きをされています。ご自身は韓国生まれで、キリスト教宣教の情熱を持つ人物で、医療のみならず日本宣教の歴史を丁寧に学び続けておられる様子がよくわかります。歴史好きの方なら著者のコメントの裏どりをしたいと思うことでしょう。
 私は最初『ヘボン先生との対話』というタイトルに正直戸惑いを感じました。これは人物伝、それとも研究論文なのだろうか? 実際に読み始めてみると、さらに悩みは深くなりました。これはどのような類型の本になるのか。証書? ファンタジー小説? 自伝的物語? あえていうなら、それらすべてが融合されているような書物であるとしか表現することができません。
 前書きで著者はこう言います。「私は弱くなっていく自分をヘボン先生にぶつけてみたかった。クリスチャンの世界では自分の悩みをイエス様にぶつける、とよく言う。私はヘボン先生を、170年前の過去から今の横浜へもう一度招いてみることにした。伝道者ヘボンの心を頂くためである」と。著者と同じ眼科医でキリスト教宣教のために来日し、その生涯をささげた偉大なる伝道者ヘボン博士を今日に甦らせる試み、真に驚きです。
 この対話は、開国初期の日本の様子を詳細に描くというものではなく、明治期から現代に至るまでのさまざまな時代背景、日本や他国の教会史に登場する人物の足跡、今日苦難に立つ日本の教会の現状について、複眼的に解き明かすような内容となっています。それはまた、論文調の言論ではなく、情緒的表現を用いながら対話調で問題点を語る物語となっています。読み終えて思ったことは、ヘボン先生という歴史上の人物を用いながら、もう一人の著者自身の声を表現する。いわゆる腹話術のような特徴を持つ対話小説となっています。不思議な読感を味わうでしょう。
 ジェームス・C・ヘボン博士は医療伝道宣教師で、日本の聖書翻訳事業に大きな貢献を残された人物です。その延長線上に私ども日本聖書協会(JBS)の歴史は発足しました。西暦2025年にJBSは創立150年を迎えるため、その記念イベントや書籍出版の企画を始めています。日本に生きるキリスト者はこれからどのように生き、どのように次の世代へとバトンをつなげていくか、最も大きな課題です。その課題に、ヘボン先生と時夢(ジム)との対話は夢物語のようでありながら、辛口の問題提起をするものです。歴史好きの方は片手に『日本キリスト教歴史人名事典』(教文館)を開きながら読んでいただきたい。きっと読者は横浜愛を深めることになるでしょう。

ヘボン先生との対話
涙と共に福音の種を蒔くすべての人々に

柳沼時影著
四六判・312頁・1870円(税込)・ヨベル
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書き手
具志堅聖

ぐしけん・きよし=日本聖書協会総主事

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