ソーニャ・M・スチュワート 著/左近深恵子、西堀和子、 ブラウネルのぞみ 訳 『イエスさまについて行こう』 (小泉健)

出来事の中へと子どもたちを招く
〈評者〉小泉健

イエスさまについて行こう
ソーニャ・M・スチュワート 著
左近深恵子、西堀和子、ブラウネルのぞみ 訳
A4判 ・260頁・定価4180円・一麦出版社
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 礼拝や説教をとらえる際に、近年の実践神学ではよく「演出」という概念が用いられます。「演出」と言っても、ドラマチックにするために飾り立てることではありません。例えば礼拝の場合、その中心にあるのは、神と神の民との出会いです。この出来事を、神の御前での出来事にふさわしいように整えます。順序を考え、礼拝者のふるまい方、言葉遣いを正します。適切な音楽を生み出し、使用します。その全体を「演出」と呼んでいるわけです。
 説教の出来事についても、「演出」の概念を用います。聖書というテキストは揺るぎないものです。一言一句おろそかにできないし、変えられません。その聖なる書物が、しかし今ここで、ここにいる人々に向かって、力強く語りだすようにしたいのです。そのために聖書を「演出」します。説教の場合は、「演出」よりも「演奏」と言う方がいいかもしれません。クラシック音楽において楽譜は絶対です。しかし、その楽譜は解釈され、演奏されて初めて生きたものとなり、聴衆の心を動かします。そのように、説教は聖書を解釈し、「演奏」して、生きた言葉として今ここにいる人の心に語りかけるのだというわけです。
 このように考えれば、なるほど礼拝はいつでも演出されており、説教はいつでも演奏されていると言えます。それなら、子どもたちの礼拝や説教はどうでしょうか。礼拝であることを重んじて大人の礼拝の形に固執したり、反対に礼拝でなくなったりしていないでしょうか。子どものための言葉で説教していなかったり、説教とは呼べないお話になったりしていないでしょうか。子どものための「演出/演奏」になっていないことが多いのです。とはいえ、それに対してどうしたらよいかわからずにきました。
 そのような現実を突破して、場所のしつらえ、会衆の集まり方といった土台の部分から築き直し、子どもたちと一緒にささげる礼拝を見事に「演出」しているのが、既刊の『ちいさな子どもたちと礼拝』であり、本書『イエスさまについて行こう』です。
 本書は、まず「序」として、礼拝についての考え方、準備の仕方、ヘルパーの役割、そして本書が取り上げている単元の概要を示します。理論的な部分は『ちいさな子どもたちと礼拝』の方がくわしいですが、本書を読むだけでも基本的なことをしっかりつかむことができます。
 続けて、神の言葉を「演奏」するための具体的なセッションが34例収められています。教具を用いて、主イエスの出来事が実演されます。子どもたちはその出来事に引き込まれ、体験することになります。
 実際に読むとすぐにわかるように、余計な演出は一切ありません。聖書の言葉を深く受け取った上で、その内的な構造が把握され、実演するための形へと造形されています。(わたしたちの説教の方が、なんと余分な説明や修飾や勧告を付け足してしまっていることかと反省させられます。)子どもたちは御言葉の出来事を体験した上で、問いかけに導かれて、その意味を自ら思い巡らします。
 百聞は一見に如かず。まずは「子どもと礼拝の会」のホームページで実演動画をご覧ください。それを実際に行うためのすべてが本書に納められています。

書き手
小泉健

こいずみ・けん=東京神学大学教授

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