イースターへの旅路  レントからイースターへ

今、読むべき説教がここに
〈評者〉松本雅弘

新版・教会暦による説教集
イースターへの旅路
レントからイースターへ

荒瀬牧彦編

四六判・256頁・本体1800円+税・キリスト新聞社

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  本書は教会暦に基づく聖書箇所からの説教で、「灰の水曜日」から「キリストの昇天日」までの全一六編が収められています。

 今回の編者、荒瀬牧彦氏が「あとがき」で、「どの説教者も、自分が今どこに立っていて、何を見ていて、どう感
じているのかを覆い隠さず、自分の人生や生活というフィルターを通過して出てきたメッセージを個性をもって語っている」と記しますが、確かにどの一編をとっても読み応え満点、引き込まれる説教ばかりでした。

 説教執筆者のうち第一巻の編者、越川弘英氏以外は、中堅、若手の説教者で、評者が信仰に導かれた東京フリー・メソジスト教団をはじめ、現在、所属するカンバーランド長老キリスト教会にいたるまで、教団教派、神学的背景も様々です。しかしいずれの説教にもコロナ禍であることと3・11から十年という「日付」が明確で、「語る者の現在がはっきりと見える説教」でした。

 森喜朗氏による女性差別発言に端を発した一連の「オリンピック騒動」の最中に読むことになった、「肉もがれる
逸脱の息ーシャローム」で渡邊さゆり氏は、「今度は、『わたしもです(Me Too)』と、言えないか、そんな希望が湧いてくるのです。言おうではありませんか。あなたはひとりではい、わたしもです、と」と投げかけ、リスクの伴う
信仰の冒険へと誘う強烈な迫りを感じたことです。

 関野和寛氏の「長すぎた聖金曜日」と題するイースター説教では、この時代の感性で語りかけてくる言葉に、正直、度肝を抜かれました。「イースターおめでとうございます!」と、無意識に使う挨拶言葉からその後の意表を突く展開に不思議と復活の恵みの中に導かれていきます。

 本書を手にしたのが二月初め、読み終えたのが「灰の水曜日」。吉岡恵生氏の説教「神への全集中」は、「灰の水曜日」をもって始まるレントへの導入として、教会暦で指定された聖書箇所をどのように語るかのモデルを評者に示してくれました。
 
越川弘英氏の「昇天日」の説教には「ペンテコステに備えて」という副題が付けられています。「昇天日」の新し
い祝い方についての提言は新鮮でした。 おりしも3・11から十周年を迎える今年のレント、日本と世界が過ごしているこの時代を見極めて、どのように生きるのかを問われていることを痛感します。編者が、「二〇二〇年という年に編まれた書として、この説教集は必然的に、新型コロナウイルスという病禍の翳りを帯びたものとなっています。また、多くの説教にパンデミックによっていよいよ露わにされてきた世界の諸問題がもたらす闇の深さが表れています。説教者たちはその闇の中でイエスの死を見つめ、その復活の意義を問い、黙想し、語ります。きれいな形にまとめられなかったにしても、今この時でなければ語れないことを語ろうと試みています」と紹介するこの説教集は、まさに今、この時を生きる私たちに必要な聖書のメッセージを届けてくれることでしょう。レント・イースターの説教を新鮮な思いをもって語りたい私たち説教者にとっても貴重な洞察を与えてくれる書となると
思います。今、心からお薦めの一冊です。

書き手
松本雅弘

まつもと・まさひろ=カンバーランド長老キリスト教会高座教会牧師

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