クリス&ジェイミー・ベイリー 著/田尻潤子 訳 どうすれば赦せるようになるのか(川上直哉)

赦しは教会の外に向かってあるのか?!
〈評者〉川上直哉


どうすれば赦せるようになるのか
52週の旅路

クリス&ジェイミー・ベイリー著
田尻潤子訳
四六判・272頁・定価1980円・ヨベル

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 本書は「赦そう」と志す人を助けるための本です。「赦さなければ」という思いを持つ人を読者として想定しています。たとえば「赦してこそ、赦されるのだ」ということを「本当にそうだ」と思っている(信じている)人のために、この本は書かれています。
 そうした人の多くは、クリスチャンだ、という事でしょう。毎週一度、聖書の言葉を用いて行う「デボーション」が、本書の前半に配置されています。そして後半には、具体的に手と目と口、時には足を使っての「エクササイズ」の指南書が配置されているのが本書です。
 本書の著者は米国人夫婦です。夫婦ともに「クリスチャン・カウンセラー」を生業なりわいにしておられるようです。神学の教育をうけた「カウンセラー」で、特に「結婚生活」のコーチングに実績があるようです。カウンセリングの現場で「旅」あるいは「出エジプトの旅」をイメージとして活用し、「赦し」への歩みに同伴してくれる。そんな著者の本です。「クリスチャン・カウンセラー」とは、つまり「牧師」の仕事を教会の外でする専門職であるようです。

 本書にはたくさんの聖句が提示されています。キリスト教の神話的イメージが活き活きと用いられています。でも「教会」は、ほとんど姿を見せません。「賛美を積極的に活用する」というエクササイズのために「教会に足を運ぶという方法もありますよ」と付言する一か所でだけ、「教会」が語られているようです。
 その代わり、でしょうか。本書には、たくさんの具体的な顔と名前が登場します。みんな「赦す」ことに苦労している人々です。生々しく、その人・その人の物語があり、一人ひとりの・一つひとつの痛みがある。そのことに肉薄し、どうしようもなくたたずみながら、神様の救いを信じて祈り・御言葉に沈潜し・エクササイズを試してみる。そんな息遣いと体温が感じられるのが、本書です。本書を読みながら、教会の牧師である私は、考え込みました。そして、私の体験を二つ、思い出しました。
 私が本格的に牧師になった時、一つの決心をしました。私は「赦すこと・祝福すること」にだけ、専心しようと決心しました。人が集まる/集まらない、献金が集まる/集まらないは意識しないことに、決めました。そして私は、赴任した教会のある町の二つの教会と合同の「学習会」を企画しました。そのテーマは「赦すこと」でした。脳科学の本を読んで、信徒の方々に分かりやすく紹介する、という学習会を持ちました。「教会」の枠組みを少し緩めることで、科学の入る隙間を空ける。そんな感じだったと思います。「クリスチャン・カウンセラー」が教会の外で活躍する、というのは、あるいは、そういう事なのかもしれません。でも、この私たちの試みは「コロナ」で中断してしまいました。
 「コロナ」の騒動の中で、オンラインの催事が始まりました。ほどなく「教会に行けなくなったクリスチャン」が、たくさん、つながってくださるようになりました。その方々を実際に訪問し、聖餐を共にする、ということが始まりました。「出張聖餐」です。私は、「いつか元の教会に戻れるように」と祈りつつ「宿り木」のような役割を果たせればと願っています。先日、その「出張聖餐」の時に、本書を用いてみました。参加した数名で、ゆっくりこの本を読み、考えました。
 本書は「簡単には、赦せないですよね」と、随所で語ります。「『再犯』がおさまらない場合は例外です。そのような人とは距離を置き、先へ進むのが良いでしょう」と、優しいのです。でも私は教誨師きょうかいしですから、「あら… …」と、立ち止まってしまいます。
 本書は、優しい。「正しい御言みことば」を、講壇の上から権威をもって語るようなことは、しない。「赦せない読者」に寄り添い、「どうしたら赦せるようになるだろう」と、歩調を合わせてくれます。確かに、これは教会の言葉ではない、かもしれない。
 そんなことを考えながら、本書をゆっくり読んで、聖餐式をする。「赦せない私」を許してくださる神様の愛を思う。「赦せない」ことの結果生じてくる私たちの軋轢を、命を捨ててでも、引き受けてくださる神様の愛を、「最後の晩餐=聖餐」の食卓で、思い知らされる。ああ、何という、恵み・恩恵─ ─。
 今、教会は不要とされてきているのかもしれません。日本で教会は「絶滅危惧種」と同じ頻度で消滅しつつある、との統計も聞きました。そして、例えば米国では、教会の外に「クリスチャン・カウンセラー」が活躍している。教会の外に、クリスチャンがたくさんいる。その方々のために、この本もある。教会は、本書の前に、謙虚になって、教会の外へ踏み出し、教会の外の方々に仕えるように、招かれているのではないか。
 そんなことを考えながら、本書を読み終えたことでした。
「教会の外のクリスチャン」と共に、この本を読まなければ。そう思いました。

書き手
川上直哉

かわかみ・なおや=日本基督教団石巻栄光教会牧師、東北ヘルプ代表

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