【出会い・本・人】事典という知の宝庫(山野 貴彦)

 私は神学校や大学の授業において、分からないことがある場合にはまず事典を参照するようお勧めしています。それはかつて学生時代に私自身も先生方から教授されたことなのですが、眼前にあるテキストに対し一定の知識・理解がなければ学びを深めることは適わないからです。その語や概念がどのような歴史的背景を有しながら用いられてきたか、それを私たちは現在の私たちの文脈をふまえつつどのように理解するか。事典によって重要な基礎知識を獲得し、そこに示されている参考文献を通してさらに専門的な学びの道を広げてゆく、そのくり返しにより様々な知見が蓄えられてゆきます。
 以前、私は立教大学在学中に「ヤコブ文庫」という、日本聖公会の書籍購入支援プロジェクトの支援を受けて『旧約新約聖書大辞典』および『ギリシア語新約聖書釈義事典』を入手することができました。聖書学における重要な基礎文献を自分の本棚の、手に取りやすい場所に納めた時の嬉しさは今なお鮮明に記憶に残っていますし、現在も研究室に置き、授業準備のためなどに用いています。
 ドイツ・テュービンゲン大学への留学時に、膨大な蔵書数を誇る神学部図書館でTRE、NBL、NEAEH、RGG、JUDAICAなどの基礎文献をはじめ、数々の事典から知識を得ることができたのは私にとって大きな学問的財産となりました。伝統的に神学が大切にされている国々においては百年にわたる事典刊行プロジェクトも珍しくありません。既刊も適時改訂されてゆきます。そのような伝統に倣い、日本の神学界の今後における発展のためにも、神学を志す方々に知的刺激を提供する日本語による優れた事典類がますます揃ってゆくことを、また、私が学生時代に重要な事典を自分の本棚に置いたあの時の喜びを味わうことができるようこの国における学びの支援環境がさらに整えられてゆくことを、願ってやみません。
(やまの・たかひこ=聖公会神学院専任教員)

書き手
山野貴彦

やまの・たかひこ=聖公会神学院専任教員

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