【出会い・本・人】私たちは人生で、何冊の本を読めるのだろう

 牧師職を休んでスコットランドに留学中の伯父を頼り、大学生で初めて一人海外に飛んだ。伯母と伯父を訪ねる喜びは、幼い日に親に連れられた頃から変わらない。人生の先達に、助言を求めたい心境もあった。多いはずの将来の選択肢から何を自分の道と捉えるか。抱いていたのは漠然とした悩みだ。
 聞けば昔、30代の両親が伯父の牧師館に通った理由も、親戚づきあいのためだけではなかったらしい。土曜夜遅く、時には日曜朝まで牧師夫妻を煩わせた人生問答を通し、まずは父の心が動かされたという。ほどなく一家で教会にも通い始め、あるクリスマス礼拝に、家族五人で受洗した。
 渡英時の会話では、紅茶の美味しい昼下がりに、伯父がふと漏らした呟きが忘れられない。「周平さん、仮に人生80年と見積もって、あと何冊読めるか現ペースで数えたら、これがあまりに少ないんだよ!」。本の虫のこの一言には驚いた。同時に、詩編90編が共鳴して思い浮かぶ。「生涯の日を正しく数えるように教えてください」(新共同訳)。この祈りに心寄せるうち、若い日に聖書という「多声の一書」と出会えた一事に意義があると思い至った。み言葉を巡り与えられた、神と人との信実な出会いの深さ・長さ・広さと重さが私に迫る。私の選択肢は多くはない。教会に与えられた場所があると思った。
 帰国時、伯父がくれた手紙に、あのクリスマスの洗礼が想起されていた。当時伯父は牧会上最も悩み多い日々にあったという。しかしあの一日ばかりは千年のようで、神がこの日のために私たちを当地に召されたように感じた、と。読んだ私は、生涯の日々を正しく数える人と共なる一瞬一瞬を、神に感謝せずにはおれなかった。
(おおいし・しゅうへい=日本キリスト教会府中中河原教会牧師)

書き手
大石周平

おおいし・しゅうへい=日本キリスト教会多摩地域教会牧師/カルヴァン・改革派神学研究所所長

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