【出会い・本・人】読人書─人を読む書

 私は本を読むのが大の苦手だ。とにかく集中力がなく、読むのが遅い。全部読み終わる前に、他の本を読み始めてしまう。さらに悪いことに、すぐに読みもしない本を買い貯めて、置き場に困ってしまう。
 私は本を読むより、人と話すほうが好きなタイプだ。大学生時代、よく図書館にいたため、友人たちは私がいつも本を読んでばかりいると思っていたらしいが、単に話し相手になる友人が来ないか、空調が効いた図書館で待っていただけだ。
 だから、私は全くもって「読書人」などではない。
 しかし気が付くと、そんな私が本を書くようになっていた。
単著に『日本の中国占領統治と宗教政策─日中キリスト者の協力と抵抗』(明石書店、二〇二〇年)、共著に『増補改訂版はじめての中国キリスト教史』(かんよう出版、二〇二一年)、訳著に『王道─21世紀中国の教会と市民社会のための神学』(新教出版社、二〇一二年)、『香港の民主化運動と信教の自由』(教文館、二〇二一年)、他に論文がいくつかある。
 いずれも中国大陸や香港のキリスト教(一部、日本も含む)に関するものだが、これらは本を多く読んだから書けたものというわけではなく、むしろ、中国や香港の現地の空気を吸い、そこに生きる一人ひとりのキリスト者と出会い、語り合い、祈り合うことを通して、彼らのことを書いたり翻訳したりしたものばかりだ。もちろん、本を書くために一定の量の他の本を読まなければならないが、私が書いた本は、「本を読む」ことよりも、「人を読む」ことを通して書いた書物、「読人書」と言える。
 自分で「読人書」を出すようになり、今さらながら改めて気づいたことがある。それは、今まで苦手に思っていたさまざまな書物も、やはり同じように「読人書」なのだと。「読書」とは、単に書物の文字を読むことではなく、その書物の中あるいは背後にいる「人を読む」ことなのだと。
(まつたに・ようすけ=金城学院大学宗教主事・准教授/日本基督教団教務教師)


日本の中国占領統治と宗教政策 日中キリスト者の協力と抵抗
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書き手
松谷曄介

まつたに・ようすけ=金城学院大学宗教主事・准教授/日本基督教団教務教師

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