梅津順一 著 大学にキリスト教は必要か(大西晴樹)

グローバル化の時代におけるキリスト教大学の役割
〈評者〉大西晴樹


大学にキリスト教は必要か
新しい時代を拓くもの

梅津順一著
四六判・208頁・定価1870円・教文館

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 本書は、著者が、二〇一八年から二〇二二年までの四年間におもにキリスト教学校において話した講演七本からなる講演集であり、本書のタイトルは、青山学院大学における著者の最終講義の名前に由来する。著者は、社会経済史の研究者であるが、二〇一四年より青山学院院長という職責を四年ほど担い、並行して二年間、キリスト教学校教育同盟理事長を歴任した。
 「大学にキリスト教は必要か」という本書は科学と宗教の関係を直截に論じたものではなく、キリスト教大学の歴史や大学論を論じた書物である。アメリカでは小規模なリベラルアーツ・カレッジが総合大学になったのに対して、日本の高等教育機関はその設立の当初から、近代国家の建設に貢献する高度な専門家の養成という特色をもっていた。人間教育を基礎としてその上に専門教育をおこなう余裕はなかった。慶応義塾がアメリカのリベラルアーツ・カレッジに近いとすれば、それにキリスト教を加えたのが、キリスト教大学であり、日本の大学でキリスト教を積極的に語ることは、日本人の宗教意識を明確にすることである(第1章)。

キリスト教大学は、日本の転換期に大きな役割を果たしてきた。第一の転換期である明治維新には、文明国の学問を宣教師が教授し、第二の転換期である敗戦には、民主主義・人権・平和という価値観を体現してきた。現在、第三の転換期であるグローバル化、情報化の時代に、多様性の尊重・差別の撤廃・自然環境保護など地球社会の課題に対して、普遍的な精神を貫き、それらの課題を解決するうえで、積極的な役割を果たすことが必要である(第2章)。欧米の市民社会においてプロテスタント諸教派は、自由教会として、学校、病院、福祉施設などの自発的結社を作り、人びとの暮らしを豊かにしてきた。戦後のベビーブームの時代には、毎年二七〇万人が生まれたのに対して、今日の出生者数は一〇〇万人を割り、一〇〇年後の日本の人口は五〇〇〇万人を下回る。現在の三〇歳代の男性の三割、女性の二割が生涯未婚者となる見込みの少子化時代に、キリスト校大学が、人間の生きる意味、家庭をもつ意味、子どもを育てる喜び、豊かな地域づくりを教えるのであれば、少子化対策に大きく貢献する(第3、4、5章)。
 著者のキリスト教大学論には、賛同する部分が多い。喫緊の課題である政治家とカルト宗教との結びつきはまさしく、日本人の宗教意識の曖昧さに由来し、第三の転換期においてキリスト教大学が真価を発揮することが出来るかは、キリスト教大学の浮沈にかかわる問題だからである。また人口減少に対して歯止めをかけることは、地域社会におけるキリスト教大学の再評価につながる。しかしながら、著者はもう少し内省的にキリスト教大学の現状を語るべきではなかったか。たとえば、「現在の日本のキリスト教学校をみると、評議員会であれ、理事会であれ、そのような役割を果たしているかどうかは、率直に言って心許ないところがあります」(五九頁)と述べながら、その後の展開がなされていない。欧米の市民社会と異なり、理事会や評議会において非キリスト者の理解や協力なしに、日本のキリスト教大学の未来は到底考えられないからである。

書き手
大西晴樹

おおにし・はるき=東北学院院長、大学学長

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