【本のひろば】 2019年1月号

『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
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2019年1月号


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  • 出会い・本・人
    「横軸」を通して「縦軸」を知る (エッセイ:齋藤篤)
  • 特別記事
    『聖書ものがたり ノアの箱舟』作者 金斗鉉さんに聞く
  • 本・批評と紹介
    • 『遠藤周作による象徴と隠喩と否定の道』
      兼子盾夫著、キリスト新聞社―(金承哲)
    • 『剣を収めよ』
      ジョン・ディア著、新教出版社―(金井創)
    • 『イエスのたとえ話の再発見』
      ヨアヒム・エレミアス著、新教出版社―(廣石望)
    • 『復刻 聴講五年』
      斎藤宗次郎著、教文館―(鈴木範久)
    • 『社会の苦痛と共に歩む教会をめざして』
      鶴ヶ岡裕一著、キリスト新聞社―(濱野道雄)
    • 『聖書信仰に基づく教会形成』
      赤江弘之著、ヨベル―(朝岡勝)
    • 『初代教会と現代』
      湊晶子著、ヨベル―(永田竹司)
    • 『キリスト教信仰のエッセンスを学ぶ』
      小笠原優著、イー・ピックス―(阿部仲麻呂)
    • 『「筑豊」に出合い、イエスと出会う』
      犬養光博著、いのちのことば社―(小栁伸顕)
    • 『暴力の世界で柔和に生きる』
      スタンリー・ハワーワス他著、日本キリスト教団出版局―(太田勝)
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編集室から

 先日、ある方が、おっしゃいました。「土肥さん、救いってなんだろう」。その方の苦しい今を聞いたあとでしたので、私なりに、真剣に応えようとしたのですが、ふと、読んだばかりの小川洋子の小説『ことり』を思い出しました。

 もしかしたら、よく知られている小説なのかもしれません。私はその評判を知らないまま、図書館で見かけて、読み始めました。そして、そのすばらしさに驚きました。しかし、私がその小説の何に感動しているのか、実はよくわからなかったのですが、先日の会話のさなかに、「あの本は《救い》について書かれているのでは……」と気づいたんです。

 朝日文庫版の裏表紙に、本書の概要があります。「人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりを理解する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟。二人は支えあってひっそりと生きていく」。

 例えば、兄弟が幼稚園の鳥小屋の前で、じっと耳を澄ましている場面。そこにこうあります。「兄弟二人以外にこの歌を聞いている者は誰もいない」。兄は、弟を残して、やがて亡くなります。しかし、彼が鳥小屋の前でフェンスにもたれかかって、鳥の歌を聞き続けていた、その兄の姿のままに、フェンスの窪みは残っていきます。

 この兄弟の、ひっそりとした孤独。それを天から見ている眼差しによって、この小説は書かれているんですね。

 鳥たちの声を兄弟だけは聞き取っていたように、兄弟の生きる姿を見ていてくださる方がある。フェンスの窪みが残り続けたように、この二人をいつまでも記憶してくださる方がある。そのお一人の方を指し示すのが、この小説であり、この方の存在が《救い》そのものだと言おうとしているのではないか。

 「そのあなたが御心に留めてくださるとは、人間は何ものなのでしょう。」(詩編8編)(土肥)

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