【本のひろば】2017年3月号

『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
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2017年3月号


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出会い・本・人

宗教改革500年の想起(小田部進一)

本・批評と紹介

  • 『ルターにおける聖書と神学』
    上智大学キリスト教文化研究所編、リトン―(宮本新)
  • 『教会会計』
    宮本善樹著、教文館―(山崎龍一)
  • 『主の奇跡と守り』
    福地多惠子著、ヨベル―(臼田尚樹)
  • 『大崎節郎著作集7 説教集』
    一麦出版社―(久野牧)
  • 『スピリチュアルな存在として』
    窪寺俊之編著、聖学院大学―(伊藤高章)
  • 『竹森満佐一の説教』
    加藤常昭著、教文館―(本城仰太)
  • 『語りつづけた言葉』
    岡崎 晃著、教文館―(小塩トシ子)
  • 『10代のキミへ』
    髙橋貞二郎監修、日本キリスト教団出版局―(鬼形惠子)
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編集室から

 話題の映画『沈黙─サイレンス─』が公開された。日本を代表するカトリック作家の作品が、世界的巨匠によって映像化されたことは快挙と言えよう。少年期は司祭を目指していたというスコセッシ監督が、教会から敵視された『最後の誘惑』の製作後にこの原作に邂逅、爾来長年映画化を熱望した経緯を持つ。「神の沈黙の声」という逆説は刻下にこそ鋭く心を劈く。

 小説『沈黙』の刊行は1966年、既に半世紀が経つ。発表当時はカトリックから猛反発に遭い、長崎教区などで禁書扱いされた。故デルコル神父は遠藤文学を「ゆがめられたキリスト教を紹介したにすぎない」と評した。確かに後に汎神論・宗教多元論へと昇華される独自の思想が当時逸脱と危険視されたのは無理からぬことだが、教義の枠内でしか信仰の描出が不可能とすれば、不自由なカトリック文学は魅力の乏しいものと映る。遠藤が生涯追究した「キリスト教と日本人」という卑近かつ重要な主題は、キリシタン時代における受容、流行、弾圧、殉教と棄教という厳然たる歴史的事実から学ぶこと多と愚考する。

 ただ、総人口の約3%が入信し、数千人の殉教者が出た「キリシタンの世紀」を正しく把握するのは難しい。蒙昧の民に迷信が蔓延した現象として捉えたり、織豊政権や諸大名、宣教師が政治的利益を意図した結果にすぎないという解釈で満足したりするのでは、畢竟深層へは達し得ない。故チースリク神父はキリシタンへの誤解の原因として、無神論者による動機への無理解、原史料の精査不足、翻訳上の困難、時代背景の理解不足を挙げた。四つのイドラを想起させる的確な示唆であろう。

 折も折、2月7日大阪にて殉教者ユスト高山右近の列福式が挙行される。2008年のペトロ岐部と187殉教者に続く慶事に摂理の奇しさを覚えるが、単なる記念行事に留めず一つの学びの機としたい。映画『沈黙』の字幕監修も務めた川村信三神父の既刊『キリシタン大名 高山右近とその時代』(教文館)が非常に有用である。

 また、教文館三階のキリスト教書部でも2月末までキリシタンフェアが開催されている。私は多事多端にかこつけて映画の鑑賞も読書の機会も逃しそうであるが。 (髙橋)

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