十四歳からの読書ナビ

異郷との出会い
〈評者〉柴崎 聰

 古来、人間が幼年から成年へ脱皮していく転機は、12歳である。円の十二進法による一回転が、その推進力となる。イエスがエルサレムに神殿詣でをしたのが十二歳、オスカー・ワイルドの童話『王女の誕生日』の王女が十二歳、椎名麟三の『懲役人の告発』の主人公福子が十二歳、遠藤周作がカトリックの洗礼を受けたのが十二歳である。
 本書は、「十四歳からの」「読書ナビ」と命名されている。著者が十四歳の春、田舎の中学校に宣教師R・シェラーさんが訪ねてきたことが起点になる。アメリカという夢のような異郷が、近づいてきたのである。そこから七十年に及ぶ読書の旅が始まり、今もその旅の途上にある。
 幼年時代の経験を「心からわかるまでには、ある一定の期間が必要です。そのためには、14歳という年齢くらいまでは準備期間として必要でしょう」(62頁)と著者は言う。その後、東京で学び、アメリカ留学を経て、人生の陰影はいよいよ多彩になり、彫り込みは健やかに深まっていったのである。そこには常に「ときめき」が同伴していた。
 「読書ナビ」と銘打たれていても、西洋古典、聖書、讃美歌、短詩型文学、小説、ファンタジー、戯曲、思想書、絵画、漫画から映画や名文句(アフォリズム)に至る驚くべき広範囲の作品がその対象になっている。プロローグとエピローグに挟まれて、ⅠからⅣのブロックに分けられ、「ゆめみる」「みつける」「うけとる」「つたえる」という動詞の見出しが選ばれ、作品を有機的かつ動的に捉えようとしている。
Ⅰ ゆめみる 「ときめきを感じる者は、じぶんの人格を発達させ、自立した人間として成熟していきます」(14頁)、「出会いとは、ある日あるとき、わたしに起きる覚醒の瞬間です」(43頁)。物事の核心に迫る箴言が堂々と屹立している。
Ⅱ みつける 「見ることには、理解し判断できるための素養や時間が必要です」(153頁)、「多くの真理は、いまも凍結したままです。わたしたちのまわりには無数の真理が伏在しています」(158頁)。一度目の読書では気づけなかったことが、再読では真理の透明度の深さに吃驚することがある。
Ⅲ うけとる 「ひとは死という現象をめぐって、実存のもっとも奥深いところにある、絶対的な自由ということに対面するはめにおちいります」(294頁)。本書においては、時に倫理性の高い警句に出会う。読み手はそこでとまどい、おのれの思索の浅さを反省しながら、再び進むことになる。
Ⅳ つたえる 「思い出すとは受け取り直すこと」(306頁)、「幼年とは、もはや幼児でなくなった者が、ふりむいて気づくもの、ふりむいて初めてみつけるもの」(307頁)と著者は言う。イエスほど振り返り振り向いた人はいないし、他者のために自分の方向性を180度回転させ、新しい発見と真理を伝えた人もいない。本書の最良のナビゲーターはイエスであろう。
 十四歳は幼いが、巧まずして訪れた異郷との出会いによってこそ、著者の原記憶は復活し進展したのである。

十四歳からの読書ナビ
小原 信 著
四六判・400頁・定価2200円・教文館
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書き手
柴崎聰

しばさき・さとし=日本聖書神学校講師、詩人

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